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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1753号 判決 1975年3月27日

控訴人(被告)

静岡鉄道株式会社

(被控訴人(原告)

津島留太郎

ほか六名

主文

原判決中、控訴人の敗訴部分を取消す。

右取消にかかる被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴会社代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人等代理人は各控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する陳述及び証拠の提出、援用、認否は、以下のとおり付加するほかは原判決の事実摘示と同一である。(但し、原判決の三枚目裏七行目の「昭和四八年五月四日」とあるのは「昭和四七年五月四日」の、同じく八枚目表二行目の「一四、第五号証の一ないし三」とあるのは「一四号証、第一五号証の一ないし三」の誤記と認められるので、これを訂正する。)

控訴会社代理人は、仮定抗弁として、本件交通事故の原因となつた訴外長田欣一の自動車の運転が控訴会社の事実の執行につきなされたものであるとしても、控訴会社は右長田欣一の選任及びその事業の監督に付き相当の注意を尽していたから、控訴会社には損害賠償の責任がない、と陳述し、被控訴人等代理人は、右主張を争う、と陳述した。

理由

訴外長田欣一が昭和四七年四月二九日午後七時五〇分項、同人の実兄である訴外長田兼昭(第一審被告)所有の普通乗用自動車(山梨五五す四三六七号)を運転し、静岡市稲川三丁目一二番地先の道路上を西進中、同所付近の横断歩道を北から南に向つて歩行横断中の津島きみと衝突し、同人に頭蓋内出血及び頭蓋底骨折等の重傷を負わせ、同人をして同年五月四日同市内の大石外科病院において死亡するに至らせたこと及び右長田欣一が当時控訴会社のバスの運転手として雇傭されていたものであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで、右交通事故につき、控訴会社が右長田欣一の使用者として民法第七一五条の規定による損害賠償の責任を負うべきものであるか否かについて検討する。

〔証拠略〕によれば、前記長田欣一は、昭和四七年一月控訴会社に入社し、同年三月一六日頃から静岡市小鹿二丁目二五番地所在の小鹿営業所に配属され、バスの運転業務に従事していたもので、平素同市丸子七〇七番地所在の控訴会社の従業員宿舎である丸子寮から小鹿営業所に通勤するのに、前記長田兼昭所有の普通乗用自動車を利用していたものであること、本件交通事故は、その当日欣一が午後七時三〇分頃勤務を終え、右自動車を運転して丸子寮に帰る途中惹起したものであること、控訴会社では従業員が通勤用に使つている従業員の自家用車を社用に利用するようなことがなかつたことはもとより、通勤用に右自家用車を使うように指示したことも、奨励したこともなく、却つて丸子寮と小鹿営業所との間には定期バスも運行されており、また早朝及び深夜勤務のためには営業所内に仮泊施設ももうけられていて、丸子寮に宿泊している従業員にとつて小鹿営業所に通勤するために必ずしも自家用車を使わなければならない状況ではなかつたこと、およそ以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、欣一が小鹿営業所に通勤するために兼昭所有の自動車を利用していえことは、欣一の個人的な便宜によるものといわざるを得ず、本件交通事故の原因となつた欣一の退社時の自動車の運転も、控訴会社の事業の執行につきなされたものと認めることはできないものというべきである。他に右認定、判断を覆すに足りる証拠は存在しない。従つて、その余の点につき判断するまでもなく、被控訴人等の控訴会社に対する損害賠償の請求は失当たるを免れない。

よつて、被控訴人等の控訴会社に対する請求を一部認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条の規定により原判決のうち控訴会社の敗訴部分を取消し、右取消にかかる被控訴人等の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条及び第九三条第一項本文の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 平賀健太 安達昌彦 後藤文彦)

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